Back to Top

「『カリガリ博士』の真実」補遺――「今晩は、眠り男」

※「砂男、眠り男──カリガリ博士の真実」コーラ掲載後の関連話題。以下、鈴木のブログより再録

こういう連中の話をし出すときりもありませんが、もうひとり、御紹介しておきましょうか。“眠り男”という呼び名で……」 「眠り男? まるで『カリガリ博士』ですね。やはり夢遊病者なんですか」
中井英夫『幻想博物館』

図書館で中井英夫の本を開いたら「セザーレの夢」という短篇があり『カリガリ博士』のことが出ていたと安宅凜から電話あり、創元推理文庫で「とらんぷ譚」という題だったという。「とらんぷ譚」というのは四冊でトランプのカードと同じ数になって完成する短篇集の総題、私は平凡社から出た函入りのを四冊全部持っているのだが、それなら『幻想博物館』に違いない、中井が『カリガリ博士』について書いていたことも、「セザーレ」と表記していたことも覚えていたが、エッセーの中でだったと思いちがいしていて探してもみなかった。『幻想博物館』は手の届くところに絶えず置いておきたい本ではもはやなくなっていて、だから地震でも頭の上に落ちてくることはなかったのだが、クローゼットを開けてみると、天井に近い棚の上に積み上げた本がなだれ落ちたまま、片づけが途中になっていた山の中にたやすく見つかった。ページを繰ると、入院患者について語る院長(精神病院の)と「私」の会話は上に引いたとおりで、さらに次のように続く。

思わずそう聞き返したのは、とっさにあの古いドイツ映画の、黒タイツに身を固めたコンラット・ファイトの姿体を思い出したからであった。眠り男セザーレが届けられてきたときのカリガリ博士のあの喜びようはいったい何を現わしていたのだろう。(強調は引用者による)

残念ながら、この答えは書かれていないし、話も脇にそれてしまうのだが、私たちは同じ場面を次のように書いた。

これに先立つ、眠ったままの夢遊病患者として院長室に運ばれてきたチェザーレをはじめて見るシーンでの、彼の喜びようにしても、殺人のための道具を手に入れて喜んでいるのではなく(むしろ、注文した等身大フィギュアが到着したと思って頂きたい)、院長はさっそく人払いをして、さも嬉しげにチェザーレを“愛撫”している。

問題は「セザーレの夢」ではなくて、「フランシスの夢」なのだが、それでも、「あの喜びようはいったい何を」と、ちゃんと中井にも見えていたのだった。

TOP

inserted by FC2 system